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第一回 定家亜由子さん

日本の美意識をたどる本連載、「美しきひと」。日本画家の定家 亜由子(さだいえ あゆこ)さんに、初回を飾っていただきました。




「ただ心惹かれるものが
いちばん心惹かれるものが花っていうのと

自分の憧れそのものなので
花は自分にとって

美しいと思うものと、憧れというものとが
わたしの場合は描くということに直結するので
それで必然的に花をえがくということに」



近江栗東市(りっとうし)の清らかな水に恵まれ、美しい山々に抱かれた地で、幼いころから花や草木を慕い移りゆく四季に心躍らす子ども時代を過ごした。


「母が云うには九か月のときに、わたしは夜も寝ないし、お母さんの姿が少しでもみえないともう泣いちゃうような子どもだったんですけれど。あるとき、母から離れているときにシーンとしているので何があったんだろうって慌てて見にいったら、当時借家だったんですけれど夢中で壁に絵を描いていたらしく。それをみた母は怒ることもせず『この子は絵が好きなんだ』と気付いてくれて。それから画材を与えてくれて自由に描ける環境を与えてくれて。そこからはもうずっと絵を描いている子どもでした」
小学校2年生の頃、突然の思いつきではじめたと云う「一日一絵」。
はがきの大きさの紙に、なにかしっかりものをみて描く。モチーフはさまざまに、日々の心に留まるもの。
草花をはじめ、食卓に上がる前のお野菜やお魚、家族と訪れた旅先の風景など。



風邪をひいた日でも、とにかく休まず続けたと云う。
そして、とうとう千日千枚となったとき、はじめてとなる展覧会を開くことに。会場は当時通っていた山の中の小学校の教室。クラスメイトが美術館や博物館にいるような監視員さんの真似っこをしてくれた。

日本画との出会いは大学生の頃。それまで得意だったはずの絵がなぜか岩絵具(日本画の画材)では思うように描けず、そのことがきっかけとなり日本画を極めるに至ったと話す。

「それまでの画材と違って絵の具がちょっと特殊で難しかったんですね。普通のチューブ絵の具だと自分が描きたい通りに表現できるんですけれど。でも同時にそれが面白さに感じられて、これを極めてゆきたいなと思ったのがきっかけで。それからは日本画一筋で今もつづいています」

“自然から色とかたちを頂いて、描く” 日本画の特徴の一つと云います。

基底材には絹(蚕の繭から紡がれる)や和紙(トロロアオイの根を分散液「繊維の分散を助けるねり」として楮や三椏、雁皮、麻などを原料とする)などが用いられる。

岩絵具には、アメジストやマラカイト(孔雀石)、アズライト(藍銅鉱)などの輝石を砕いたものや、白い胡粉は牡蠣の殻、接着剤の役割を担う膠は牛の皮や髄からと、どれも自然の一部である“いのちの色やかたち”。

これらの声を聴き、活かして拾って自分の表現と掛け合わせてゆく。其の考え方自体が、定家さんの肌に合ったのだと話す。



「素材そのものが美しくて宝石で貝殻で、それだけできれい。自分の表現というよりもその素材そのものがもっている魅力を活かしていく、なので(他の画法とは)全く逆というか考え方が違うんですね。

なんだか和食と洋食みたいな感じ。ほんとうにきれいなお茄子があったとしたらお茄子を、あの紫色を活かして必要最低限のお出汁で料理したいじゃないですか。

日本画の場合はなんだかそんな感じで、それが面白いなと思って」

はじめて定家さんの絵に出逢ったのは、いつだっただろうか… 心地よくどこか懐かしい、そんな感覚を覚えた。一筋のひかりにいざなわれ、その淡く暖かな陽だまりをたゆたうようであった。幾何の時が過ぎただろう、まるで一瞬が永久(とわ)に感じられたのだった。

定家さんは自身の著書で、次のような一節を述べている。


“ 花のかたちを描きたいのではない 

描きたいのは、本当は、かたちにも色にも
言葉にもならないもの

花のかたちを通して気付く、かたちを超えた
いのちのひかり

強さや逞(たくま)しさ、その優しく深淵な
きらめきを描きたい ”

心の愁えをうつしてこそ芸術であるという向きもある。戦後、特にそのような画風が流行ったと云う。
しかし定家さんは画家としての生涯を通して、陽(よう)のひかりを以てして辿り着きたい真実があると語る。


「ほんとうの優しさ、ほんとうの強さ、ほんとうの美しさって何だろうって。それはまだまだ答えは出ないんですけれど、花と対話していくとなんだか見えそうな気がしていて。花が、その答えを知っているような気がするんです」  


いのちの煌めきをみつめて…


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定家 亜由子さん

1982年生まれ、滋賀県で育つ。京都市立芸術大学大学院美術研究科終了。同大学で非常勤講師を務めた後、本格的に日本画の創作活動に進む。高野山開創1200年となる2015年に高野山真言宗準別格本山惠光院に襖絵七面を奉納。2018年には高野山大本山寶壽院(専修学院)に襖絵八面を奉納。2024年春、高島屋日本橋・京都・大阪・横浜店にて個展「花と夢-艶やかな光につつまれて-」開催。 https://www.sadaieayuko.com/



出典 定家亜由子著「美しいものを、美しく 定家亜由子が描く日本画の世界」(2018年、淡交社)
撮影 HAL KUZUYA https://halkuzuya.com/
執筆 初田 絢香

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