グローバル化が加速する一方、各国の個性(いわゆる“多様性”)はいつしか薄れつつあるように思う。後を生きる子どもたちの世代に継いでゆきたいものとはなにか。現在私たちが生きる、此の『国際社会に於ける日本、日本人』というものについて多角的に考えてみたい。連載第二回目となる此度は、世界的にご活躍されておられるベルリン在住のマリンバ奏者、出田りあさん(いでた・りあ)にお話を伺いました。

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いつだって戻って来られる「私の居場所」
「自分の居場所」と語る日本人としてのアイデンティティについて、出田さんはどのような局面においても、他に物事の判断を委ねることなく自ら思考を重ね生きているからこそ、意識して一時的に “失くす” 選択をすることもあると云う。
「あちらに居れば私一人だけが日本人なんて状況も多々あり、日本代表なんです。ただ国際社会で生きる以上、ものの考え方が全く違う人たちと話すことも多く、常に(アイデンティティを)主張するとかえって生きづらくすることもあって。その時々で意識して失くすこともあるんです」
音楽 ― 私の生きる道
「パリ生活は大誤算でした…」そう口にし、はにかみ照れ笑いをする出田さん。

ウィーンでお生まれになり、2歳から熊本の地で育った。18歳で音楽の更なる追求をすべく渡仏したが、初日からスリに遭い全所持金を失うなど、海外での生活に何度もくじけそうになったと話す。
「もし田舎の町に留学をしていたら、きっと私のこの立居振舞は違っただろうなあと。もっと柔らかかっただろうし、人をもっと信用できたのかもしれないし、人を疑わずに済んだのかもしれない。でも生き抜くということが如何なることかを知れたのは大事な経験だったと思います」
その一音を出すために…
彼女は続けた。その一音を出すためには、歴史を学び、人間も、又その喜怒哀楽をも深く知る必要があるのだと。その土地々々のすべての要素が、音を紡いでいるのだと語る。

「フランスの地で人が喋る言語を話し、その人たちと同じように硬水で髪を洗うとパサパサになり…。けれども、あのように乾いた空気の中で乾いたクロワッサンを頬張り、マカロンもそうだ、全部空気を含んでいるなあとか。フランス語も語尾を読まないでなにかを含ませたこの感じ、なんだかわかるなあと。ドイツ語を話すようになって、バッハやベートーヴェンの曲はまさにドイツ語の響きにぴったりだなとも思いますし」
息遣いそのもの
今年は、これまでにない程に日本公演を行ってこられたと話す出田さん。幾分か、肩の荷が降り落ち着かれたのであろうか。時折ふとした瞬間に、穏やかな「母」としての眼差しが垣間見えた。
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団にて第一コンサートマスターを務める傍ら、ソリストとして世界を舞台にご活躍されるヴァイオリニストの樫本大進さんと2007年にご結婚され、9歳の娘と6歳の息子を育てる “ママ” でもある。
「子どもをあやす際のリズムも、私は日本人そのものなんですよ。やはり自分の軸で呼吸ができるのは、日本の音楽を弾いている時です。ラテン語やフランス語の音楽も弾くけれども、それは私ではない。私は想像して弾いているんです。
私が生まれた時に『よく生まれてきたね』と第一声かけられたであろう日本語で、おばあちゃんが、ねんねん ころーりーよー♪と唄ってくれ、背中をトン・トンとあやしてくれたそのリズムは私には自然で、日本語の曲を弾くことは私の息遣いをそのまま弾くような感じです」
心の故里(ふるさと)、熊本

昔ながらの田園風景が拡がり、山々に囲まれた熊本県田迎町(たむかえ)。彼女はその地で家族の愛に抱かれ、のびやかに育ったのだと話す。
「心の故里」と語るその存在こそが、彼女をどこまでも高く遠くへと、自由に羽ばたかせているのではなかろうか。
「夕暮れ時、と~おき~ や~まに~♪という町内のチャイムが流れてきて、『あ!ご飯の時間だ、帰んなきゃ』て。赤く染まった夕焼けの中その夕陽にあたりながら帰っていくと、『この人の家今日カレーだ~』なんて。
私にとって、想い出す匂いや光景そのすべてが熊本なんです。海外生活の方が長くなってしまって20年以上も経つのに、夕飯時になって今でも阿蘇山を思い浮かべているぐらいですから。
結局どこに居ても、自分の中にあるものは変わらないし、変えられないなあと」
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自覚する「責任」
2012年より、ミュンヘン室内オペラの専属アーティストとして日々活動をされている出田さん。海外で認められるということは、想像以上にハードルが高いものだったからこそ、多くの時間を要してしまったと話す。人生のうちの20年余りを海外で過ごす中、外に居るからこそ自覚する日本人としての「責任」があると、彼女は云う。
「日本人であることを誇らしく思う自分がいます。あちらでは日本のことをとても明るい目線で、なんなら憧れや尊敬の眼差しで見てくださる方々がいる。美しき佇まいもそうですし、失いたくないものがありますよね。誇れるような日本であり続けてほしいし、そのためには私たち一人ひとりが日本人として如何に生きるか、活動するかが問われるのだと思うので、日本に恥をかかせるようなことはしたくないですね」
此の国際社会に於いて私たちは何を考え、如何に生きるか。次世代を生きる子どもたちに継いでゆきたい日本の姿、在り方とは。私たち一人ひとりに問われているのやもしれません。
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出田 りあ さん
1982年オーストリア・ウィーンに生まれ、2歳より熊本で育つ。18歳で渡仏し、パリ・コンセルヴァトワールで学ぶ。2003年、第一回パリ国際マリンバコンクールにて第一位を受賞。2012年よりミュンヘン室内オペラの専属アーティストとして活動する。ベルリンを拠点に、平成音楽大学、及びロンドン芸術アカデミー (LPMAM) にて客員教授を務める。今年6月に初のアルバム『SUGARIA』をリリース(制作・発売:Wisteria Records、販売:Sony Music Solutions Inc.)。公式HP:https://riaideta.com/
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取材協力 (株)ヤマハミュージックジャパン
ヘアメイク 朝日光輝(SUNVALLEY)
撮影 HAL KUZUYA @halkuzuya
執筆 初田 絢香

日本に住んで居ると解らない日本の良さやチョット足らない所の理解度、その対応が何とも素敵です。